Masukうつむき、肩を震わせる恋〈レン〉。
蓮司〈れんじ〉は哀しげな視線を向けた。「蓮司くん、どうかしたの?」
後ろを向き床を見つめる蓮司に、弘美が声をかける。
「あ、いや……なんでもないよ、弘美さん」
「と言うか母さん、蓮司が帰ってきたらいつもそれだ。いい加減やめろよな」
智弘が声を荒げる。
「そんなこと言ったって」
「そんなことも何もないんだよ。母さんがそうやって恋ちゃんの悪口言うから、蓮司も家に寄り付かなくなるんだぞ」
「だってそうじゃない。恋ちゃんがあのまま蓮司といてくれてたら、母さんだって何の心配もなかったんだから」
「そうやって母さんの気持ちばっかり押し付けるなって、俺は言ってるんだよ。少しは蓮司の気持ちも考えてやれよ。蓮司だって昔の彼女、幼馴染の悪口ばっかり聞かされてたら、たまったもんじゃないだろ」
「私は親なんだよ? 子供の心配するのは当然じゃない」
「心配はしてくれていいよ。俺が言いたいのはそうじゃなくて、母さん、口を開けば愚痴ばっかりじゃないか。恋ちゃんは俺にとっても幼馴染なんだ。その子のことを悪く言われて、いい気がしないことぐらい分かるだろ」
智弘の言葉に昌子が口ごもる。
さっきまでの和やかだった食卓が、一気に重苦しい雰囲気になっていた。「ま、まあまあ……弘〈ひろ〉くんもそのぐらいで」
重い空気を何とかしようと、弘美が間に入って智弘をなだめる。
「お義母さんもね、久しぶりに蓮司くんが帰ってきたから、嬉しくてテンション上がってるんだよ」
弘美の気遣いを感じた智弘が、小さく息を吐くとビールを口にし、「まあ、そうなんだろうけど……」そうつぶやいた。
「母さんだってね、別に恋ちゃんの悪口を言いたい訳じゃないんだ。でもね……あんたらも親になったら分かるよ。親ってのはね、いくつになっても子供が可愛いものなの。例え蓮司に駄目なところがあったとしても、それでも私からしたら、恋ちゃんが蓮司を見限ったようにしか思えないんだよ」
「分かってる、分かってるから」
蓮司がそう言って、昌子の震える手に自分の手を重ねた。
「母さんの気持ち、ちゃんと分かってるから。僕を思ってくれてることもね。でもね、花恋〈かれん〉のことをそんな風に言ってほしくない。母さんだって花恋のこと、生まれた時から知ってるんだろ? 母さんにとっても花恋は、我が子同然の女の子じゃないか」
「……そうだよ。私も恋ちゃんのこと、自分の娘みたいに可愛く思ってるよ。だからこそ、恋ちゃんがあんたを捨てたのが辛いんだよ」
「いや、だから……捨てたとか捨てられたとか、そんなんじゃないんだって。恋愛ってのはそんな単純なものじゃない。人の心は誰にも分からないし、縛ることも出来ないんだって」
諭すような蓮司の言葉に、昌子も落ち着きを取り戻していった。そして大きくため息をつくと立ち上がり、台所に向かいタッパーを袋に入れ出した。
「これ、持って帰りなさい。家でもちゃんと食べるんだよ」
「ありがとう、母さん」
「でもまあ……恋ちゃんがいてくれたから、あんたは小説家なんて馬鹿な夢を諦めてくれた。それだけは……恋ちゃんに感謝してるよ」
捨て台詞のような言葉を残して、昌子は部屋へと戻っていった。
その言葉に、蓮司よりも智弘が反応した。立ち上がり何か言おうとした智弘を、蓮司と弘美が同時になだめる。「……」
蓮司がもう一度恋に振り返る。
恋は膝に顔を押し付けたままだった。* * *
「悪かったな」
「いや……帰ってきたらこの話になる。分かってることだから」
「まあ、言ってることの半分ぐらいは嘘なんだ。本音のところじゃ、恋ちゃんとお前がよりを戻すこと、今でも夢見てるんだしな」
「なんだよそれ、ははっ」
昌子が去ったテーブルで、蓮司は智弘と飲み直していた。
弘美は昌子のことが気になると、部屋に行っていた。「それくらいお前らが付き合った時、喜んでたってことだよ」
「兄貴を差し置いて」
「全くだ。あの時の俺には、まだ一人の彼女もいなかったんだからな」
「女友達は山ほどいたのにね」
「でも付き合いたいって思える女には出会えなかった。だからお前が恋ちゃんと付き合い出した時、結構ダメージくらったんだぞ」
「でも今では、あんないい嫁さんがいる」
「まあな」
「しかも僕と花恋みたいに、『智弘』と『弘美』。同じ音〈おん〉が入ってる」
「おいおい、まだそれを言うか」
「ずっと言うけどね」
「お前なぁ……勘弁してくれよ本当。いつも言ってるけど、偶然だったんだから」
「弘美さんの名前を聞いた時は驚いたよ。僕と花恋が『レン』って呼び合ってるのが、そんなに羨ましかったんだってね」
「確かにそう思ったことはあるけどな、それはそれ、これはこれだ。ただの偶然、偶然なんだからな」
「ははっ。でも弘美さんが『弘〈ひろ〉くん』って呼んでるのを聞いたら、確信犯かと思っても仕方ないと思うよ。兄貴の名前なら普通、智〈とも〉くんになるだろうから。花恋だって兄貴のこと『智兄〈ともにい〉』って呼んでたし」
「ほんと、その辺のことも含めて……勘弁してください」
「了解。今日はこれぐらいで」
「てめえ」
「ははっ」
兄弟がビールを飲みながら、楽しそうに語り合う。
そんな中、恋は静かに立ち上がると、蓮司の耳元で囁くように言った。「蓮司さん。私ちょっと、おばさんのところに行ってきますね」
「大丈夫なのかい?」
「ん? 何か言ったか?」
「あ、いや、何でもない」
笑顔で誤魔化した蓮司が、恋に向かい小さくうなずいた。
「それで? 結局お前は行かなかったのか?」
智弘がビールを一口飲み、思い出したように聞いた。
「どこに?」
「どこにってお前……あったんだろ、同窓会」
* * *
扉越しに昌子と弘美の声が聞こえる。
恋は少し緊張気味に扉を開けた。「……」
恋はこの世界で、蓮司と花恋にしか認識されない。恋が扉を開けても、昌子たちにはその現象すら認識されない。ミウの言った通りだった。
ほっとした表情を浮かべ、恋が二人の元へと歩いて行く。絨毯の上に座っている二人。昌子の手にはアルバムが持たれていた。
「この頃から、ずっと仲良しだったのよ」
開かれたページには、蓮〈れん〉と恋が小学校の正門前で手を繋いでいる写真が貼ってあった。
「入学式の時の写真よ。二人ともかわいいでしょ」
「そうですね。でも蓮司くん、ちょっと緊張してますよね」
「お父さんが写真を撮るって言ったら、急に怖い顔になってね。蓮司、この頃から写真が苦手だったの」
「花恋ちゃんはこんなにいい笑顔なのに」
「蓮司があんまり緊張するものだからね、恋ちゃんが手を握ってくれたの。そうしたら少しだけ蓮司、落ち着いた感じになって」
「でも……いいですね、幼馴染って。そういう人、私にはいなかったから羨ましいです」
「この子たちは幼馴染って言うより、兄妹って感じだったと思う。それくらい、いつも一緒にいたから」
「そうなんですね」
「みっちゃんと私はね、ここに越してきた頃から仲が良かったの。毎日会ってたわ。だからあの子たちも、お互いの家を自分の家みたいに思ってたんじゃないかしら。よく泊まりに来たり行ったりしてた」
みっちゃん。
恋の母、赤澤みつ子のことで、昌子とは互いに「まぁちゃん」「みっちゃん」と呼び合う仲だった。
「よくみっちゃんと話してた。二人共このままずっと一緒で、大人になったら結婚するんじゃないかって。私もみっちゃんも、そうなることを望んでたような気がするの」
「ふふっ」
「だから二人が付き合い出した時は、本当に嬉しかった。変な言い方になるけど、我が子二人が一緒になってくれた、そんな風に思ったものよ」
「そうなんですね」
「でも……長く続かなかった。私もね、蓮司の言ってること、ちゃんと分かってるつもりなの。いくら好きな気持ちがあっても、それだけじゃうまくいかない。恋愛は本当に難しいって」
「ですね……」
「でも辛かった……こんなことになるんだったら、二人共付き合わなければよかったのにって思ったわ。あのまま仲のいい幼馴染だったら、今でも恋ちゃん、遊びに来てくれてたかもしれない」
「お義母さん……」
「私にとっては、恋ちゃんも大切な我が子だった。でも二人は別れてしまって、そのおかげで恋ちゃん、それ以来この家に来ることもなくなって……私、寂しいのよね、きっと。
恋ちゃんと、また昔みたいに話したいな……弘美ちゃんだって、きっと気に入ってくれたと思う。姉妹みたいに仲良くなれたと思う」「そうかもしれませんね」
「でも、それは夢だった……私だって本当は、恋ちゃんのことを悪くなんて言いたくないの。だって私、恋ちゃんのこと大好きなんだから」
「分かってます、分かってますよ、お義母さん」
「でも……蓮司の顔を見てたらね、どうしても……あの子、恋ちゃんと別れてから、本当に笑わなくなったし……そんなあの子を見てたらね、辛くて……」
弘美は昌子の肩を抱き、「大丈夫ですよ、お義母さん。蓮司くんなら大丈夫、大丈夫ですから」そう囁くのだった。
そんな二人を見つめながら、恋は涙を浮かべ、「ごめんなさい……ごめんなさい、おばさん……」そう何度も謝るのだった。
「ありがとう、私なんかのことを好きになってくれて……二度も告白してくれて」 食事を終えた花恋〈かれん〉が、ティーカップを見つめ、囁くように言った。「いや、それはいいんだけど……と言うか赤澤、私なんか、なんて言わないでくれよな。俺はずっと赤澤が好きだった。赤澤以上に魅力的な女性、他にいないと思ってる。赤澤を好きになったことを後悔してないし、出会えて本当によかったと思ってる。 赤澤は決して『なんか』じゃない。そんな風に自分を貶めないでくれ」「ごめんね。でも……なんでだろう、無意識の内に言っちゃうんだよね」「それは黒木のせい、なのか」「どうだろう……でもそうね。うん、そうかもしれない」「黒木と別れたのは自分のせい、そんな風に思ってるからなのか」「私は……蓮司〈れんじ〉といて楽しかったし、幸せだった。人から見ればね、変わった二人だったと思う。特にイベントもなくて、ただただありきたりの日常をぼんやり過ごしてる、それが私たちだった。 私はその時感じる温もりが好きだった。そしてそれは、蓮司と一緒だから感じれるんだって思ってた。 でも付き合いが長くなっていって、お互い少しずつストレスが積もっていった。特に何がという訳じゃなく、ただなんとなく……穏やかすぎる日常ってのも考えものだよね。 そのありきたりの幸せに、いつの間にか気付けなくなってた、そんな気がするの。だからこれは、どちらが悪いってものじゃないと思う。ただ私は、私に愛情を注いでくれた蓮司に不満を重ねていった。馬鹿よね。 だから言ったの。私なんかって」「だから、と言われても納得いかないんだけど……赤澤の心には今も黒木がいる、そのことは分かったよ」「……」「返事、聞かせてもらっていいかな」「うん……あなたはいい人だし、
「俺は恋愛というものを、よく分かってなかった。と言うか、人が他人に対して何を思うのか、それが理解出来なかった」「どういうことかな」「自分にとって一番大切なのは自分、それ以外のことに興味がなかったんだ」「でも君は、いつも周囲に気を配ってたじゃないか」「それも自分の為なんだ。自分が心地よくいられる環境を作る、その為の行動にすぎないんだ。 だから俺はいじめを許さなかった。かわいそうだとか、正義感だとか、そんな理由じゃない。人が人を貶める、そういう場所にいたくなかったんだ」「動機が何であれ、それは結果として残ってる。君に救われた人たちは皆、君に感謝してると思うよ」「それでも俺は、自分の行いを正しいと思ってなかった。根本にあるのが自分の為、利己だからだ。 でも俺は出会ってしまった。自分のことより気になってしまう、そんな人に」「……」「赤澤と出会って、俺の人生は一変した。利己を追求してた筈の俺が、気が付けばいつも赤澤のことを考えていた。自分にとって嫌なことでも、赤澤が笑顔になるならそれでいい、そんな風に思うようになっていった」「君にとっての初恋、だったんだね」「そして俺は気付いた。他人のことに興味を持っている自分に。こいつは何を考えているんだろう、今楽しいのだろうか。どうすればこいつは笑ってくれるのだろう、そんな風にな。 それは俺にとって、初めての経験だった。気が付けば、俺の世界は変わっていた。広がっていた」「そういう風に感じれる君は、やっぱりすごい人だと思う」「赤澤に感謝したよ。彼女は俺に、世界がこんなにも温かくて優しいんだと気付かせてくれた。そして俺は……赤澤に恋をした」「……」「気付いた時にはもう遅かった。何をしていても赤澤のことを考えていた。自分の人生になくてはならない存在、そんな風にさえ思った」「君みたいな人にそこまで想われて、花恋〈かれん〉は幸せだと思うよ」「でも
「感想が正しいかどうか、そんなことはどうでもいい。お前には誰にも見えていない世界が見えている、そう思ったんだ。 俺も見える人間だと思ってた。おかげでクラスでも、みんながどう思ってるか、どう望んでるのかを感じることも出来たし、それなりに信頼もされていた」「君の洞察力の深さ、誇っていいと思うよ」「でもお前には、俺が見えないものまで見えていた」「買いかぶりすぎだよ。僕にそんな能力」「いいや、あるね。現に今だって、お前はずっと考えてる筈だ。俺が何を言いたいのか、何を望んでるのか、何に悩んでるのかって」「それは……いやいや、普通のことだろ? みんなそうして相手のことを考えて、関係をいいものにしようと思って」「そう言えるお前だから、俺は勝てないと気付いたんだよ。今お前、みんなって言ったよな。でもな、黒木。人ってのは、そこまで相手のことを考えて生きてる訳じゃないんだ。どちらかといえば、どうやって自分の気持ちを伝えようか、そればかり考えてるものなんだよ」「そう……かな」「ああそうだ。それに普通の人間は、お前みたいな生き方をしてたら疲れてしまうんだよ。人のことばかり考えて、言葉の裏を探ろうとして、本心を見抜こうとして」「……」「俺と一緒に、飯を食いに行くとする」「飯……う、うん」「俺は肉が食いたいと言った。お前は蕎麦がいいと思っていた。どうする」「……肉を食べに行くと思う」「だろ? でもな、普通は自分が食べたいものを勧めるんだよ」「そうなのかな」「ああそうだ。かくいう俺もそうだからな。そしてお前は思う。蕎麦が食べたかったけど、相手が嬉しそうだからこれでよかったって」「……確かにそうかも知れない。蕎麦を食べられたとしても、僕はずっと気になっていると思う。本当にこれでよかったのか、肉にした方がよかったんじゃない
夕刻。 蓮司〈れんじ〉は近所の河川敷に来ていた。 * * * 突然の電話。「話があるんだけど、付き合ってくれないか。場所を言ってくれたらそこまで行くから」 そう言ってきたのは大橋だった。 旧友と久しぶりの再会。 だが蓮司にとって、それは余り歓迎する物ではなかった。 同窓会も欠席した。 その時も電話で話した。どうして来れないんだ、仕事か? 何なら日程を変えてもいい、そう言われたが断った。 今の自分を見てほしくない。 今の自分には、何一つ誇れるものがない。 そんな自分が、旧友たちとの再会を楽しめる筈もない。 それに花恋〈かれん〉も気を使うだろう。 クラスの誰もが、自分と付き合っていたことを知っている。 別れたとなれば、色々と聞かれるだろう。 放っておいてほしい。今は波風立たない環境で、静かに暮らしたい。蓮司の願いはそれだけだった。 しかし蓮司は今、堤防の石段に座り、川を見つめていた。 花恋の家に泊まった恋〈レン〉から言われた言葉。「花恋さん、大橋くんにまた告白されたみたいです。今日もその……会う約束をしているようです。ひょっとしたら、告白の返事をするのかもしれません」 予想は当たったようだよ、恋ちゃん。 きっと大橋くんは、けじめをつけようとしているのだろう。 どんな答えでも構わない。ただこれで自分も、少しだけ前に進めるような気がする。 花恋と別れて三年になる。 あんないい子が、三年も一人でいる。おかしな話だ。 世の男どもは、一体どこに目をつけているんだ? そう思っていた。 しかし今、ようやく想いを告げる男が現れた。 大橋くんはいい人だ。彼ならきっと、花恋のことを幸せに出来るだろう。 自分のせいで無駄にしてしまった10年。彼ならばきっと、埋め合わせて余りある幸せを与えることが出来る
「いつまでも可愛い蓮司〈れんじ〉くん、なんだよね」「……あの子は小さい頃から、本当に変わった子だった。智弘はあんなに社交的なのに、全然周囲に溶け込もうとしなくて、いつも一人だった。寂しくないの? って聞いても、『寂しくないよ。本を読んでると楽しいから』って言って」「親としては、そんな蓮司くんが心配だった」「でもあの子、本当に優しい子に育ってくれた。誰に対しても気を使っていたし、家の中でもいつも空気を読んでた。 みんなが心地よく感じれる世界を作ろうとしてた。例えそれで、自分が傷つくことになるとしても」「そうね。蓮司くん、本当に優しいから。だから私も、花恋〈かれん〉と仲良くしてくれて嬉しかった」「私だってそうよ。恋〈レン〉ちゃん、そんな蓮司といつも一緒にいてくれて……私ね、小さい頃に言ったことがあるの。『蓮司のことをよろしくね』って。恋ちゃんも真面目な子だから、私の言葉をずっと守ってくれてるのかなって思ってた」「まぁちゃん、それは深読みしすぎ。子供がそんなこと、いちいち覚えてる訳ないでしょ。仮に覚えていたとしても、思春期に入っちゃったらそんな約束、反故にするに決まってるじゃない」「でも恋ちゃんは違った。どちらかって言ったら、蓮司の方が恥ずかしがって逃げてた。中学に入ってからも、家で一緒に宿題したりしてくれてたし」「もうあの頃には花恋、蓮司くんを好きだったんだと思う」「でも蓮司、あの頃学校でいじめを受けてて」「そうね……いじめって、どうしてなくならないのかしら」「世の中、臆病な人ばかりだから」「……」「みんな怖がってる。人に誇れるものがない、そんな自分はこの世界で価値がない。思春期の子供なんだから、特にそう思うんだと思う。 だから自分より弱い者を見つけて攻撃する。攻撃することで、自分がその人より強いことを誇示しようとする。自分の方が価値がある、そう自分に言い聞かせる。そして蓮司みたいに社交性のない人間
「ほんっと、私って馬鹿だ」 そう言ってうなだれる恋〈レン〉を見て、蓮〈れん〉は苦笑した。「なんで出る時間、確認しなかったかな」 * * * 蓮司〈れんじ〉と花恋〈かれん〉。二人をまた付き合わせる。 そう決めた恋は、蓮を連れて花恋の家に向かった。 説得するなら花恋さんからだ。自分のことは自分が一番分かっている。 それに今は蓮くんも一緒。花恋さんだって、蓮くんを見れば気持ちが動く筈だ。 だって私なんだから。 蓮司さんには意固地になっても、蓮くんの話なら聞ける筈だ。 早くしないと花恋さん、今日大橋くんと会うって言ってた。昨日の様子だと、ひょっとしたら告白を受けてしまうかもしれない。 そうなったらもう、どうすることも出来ない。 大橋くんには申し訳ないけど、私は蓮くんと同じ未来を生きていきたい。 そう思い花恋の家へと戻ったのだが、肝心の花恋は既にいなかった。 玄関先で頭を抱え、恨めしそうに恋がつぶやく。「……私ってばさ、いつも肝心な時にこうなんだよね。詰めが甘いって言うか」「そういう所、確かにあるかもね」「ひどーい。こういう時はちゃんと慰めてよー」「ごめんごめん。それで? 花恋さん、どこで会うって言ってたのかな。今から行けば、まだ間に合うかも」「……聞いてませんです、はい」「なるほど。流石は恋だね」「ううっ……自分のことながら情けない」「まあ、行っちゃったものは仕方ないよ。終わったことを悔いるより、次の手を考えた方がいいと思う」「こうなっちゃうと、蓮くんの方がポジティブになるって言うか、ほんと……蓮くんのそういうところ、私も見習わないとね」「僕は僕に出来ることを考えるだけだよ。先に説得したかった花恋さんはいなかった。ひょっとしたら花恋さん、大橋くんの告白を